36、精神病における薬物治療について

治療

精神病、特に統合失調症の治療は薬の服用が一番大事と言われています。同時に心理社会的療法など人との関わりも、大事とは言われていますが、一般的には薬の方が主との印象を受けます。
心理社会的療法とは精神分析、認知行動療法、作業療法、SST、暴露反応妨害法などを言います。

しかし、本当は人との交流を含めた、心理社会的療法が治療の主で、薬物は従、補助的なものです。
なぜなら薬が愛を教えてくれると思いますか? 薬が必要ないとは言いませんが、あまり期待しすぎない方がいいです。

愛とは、感謝、許し、いたわり、尊敬など他者と共存、共生できる考えや行動を指し、それを当たり前にできる人間性を指します。
参考記事: 精神科医 愛を語る➀ 精神科医 愛を語る②

本来の治療とは、症状を抑えるのではなく、妄想の人間関係性を減らし、愛の人間関係性を増やしていくことです。そうすれば、自ずと症状は消えていきます。

妄想は愛の対局にあり "自分や他人を傷つける考えや行動" を指します。現実にあるかどうかで判断するのではありません。たとえば、憎しみや嫉妬、嘲笑、いじめ、不平、不満、他責、自責、自己卑下、希死念慮などがあります。
参考記事:妄想について どのように妄想に陥ってしまうのか? 

実社会の中で心理社会的療法にチャレンジすることは、未知の世界に飛び込むようなもので、不安や緊張などの精神症状が一時的に高まるのは仕方ありません。症状に一喜一憂しないでチャレンジしてもらいたいと思っています。

でもこんな風に言われると厳しく感じられると思うので、外来では患者さんの状態に合わせて、受け入れてもらえそうな範囲のことを、言葉を選んで促しているつもりですが、人によっては厳しいと思われているかもしれません。焦る必要はないので、ゆっくりでいいから、一歩一歩とやっていただければと思います。

前にも言いましたが、私は精神分裂病と診断されるのが恐くて、病院には行っていません。ですので、薬はのんでいないのですが、その代わりにアルコールは飲みました。アルコールをチビリチビリ飲みながら、フロイトの精神分析入門をやっとの思いで1日4、5ページ読んでいたのは今となっては懐かしい思い出です。ちょっと話がそれましたが、やはり何もすがるものがないのは厳しすぎると思いますので、患者さんの希望を聞きながら、薬は普通に出しています。アルコールも弊害はありますので、薦めているわけではありません。

薬を服用するのは、外出するため、作業所に行くため、人と交流するため、仕事をするため、学習するためなど、心理社会的療法を行うためであって、症状を抑えるためではないので、薬の量は、患者さんによってではありますが、少し物足りない位がいいとも思っています。

抗精神薬(妄想・幻覚、思考を抑える薬) 抗躁薬(気分の高揚を抑える薬)

統合失調症、躁うつ病の患者さんで、内観できず、妄想や躁状態を全開にして、自分で止めようとする意志が全く見えない時は、逆に止めてあげた方がいいと思うので、薬を使って沈静させます。妄想や幻聴、躁を抑えるということは ”うつ”や陰性症状になることを意味しますので、患者さんは調子が悪くなったと言って拒薬してしまう方もいます。 
参考記事:うつ病診断症状 ”うつ”原因はいろいろ
陰性症状とは、感情鈍麻、意欲減退、思考抑制などを言います。

今は、妄想を少しだけ残して抑え込み過ぎない抗精神薬、抗うつ効果のある抗精神薬もあるのでそちらを使用することが多いです。また、抗うつ薬・抗不安薬を併用することもあります。試行錯誤やってますが、コントロールはなかなか難しいです。

妄想を自分の意思で止めたいけどなかなか止めきれない患者さんにも抗精神薬を使うことがあります。その場合は一時的な使用や少量の使用でコントロールできることもあります。

抗精神薬はやめられるのか?
妄想・幻聴が落ち着いている統合失調症の患者さんが薬をやめて再燃した場合、落ち着かせるためには薬は増量となることが多く、落ち着いてからの維持量も、再燃前より増えることが多々あります。私はどうしても保守的に考えてしまいますので、生活や仕事が普通にできて穏やかに暮らせていれば、少量の薬を維持したままでいいんじゃないかと思ってしまいます。

やめるのなら患者さんの人間関係性をしっかり見極める必要があります。生活や仕事が普通にできているか?、家族や友達など多くの人と交流して良好な関係を築けているか?、何か問題が起きても周囲の人と協力して解決ができるか?、不平不満はなく感謝や優しい気持ちで過ごせているか?、理不尽なことがあっても許せるか?、断薬大丈夫という誇大妄想に陥っていないか?、自己評価と周囲からの評価に乖離はないか? 時間をかけて検証する必要があります。医者が普段の診療でそれらを見極めるのは難しいと思います。

抗うつ薬

“うつ”は時間が経てば、治ると考えていますので本当は薬なしでもいいと思っていますが、医者も薬を出す位しかできませんので、結局薬を出しています。

抗うつ薬は、睡眠や食欲、妄想など他の精神症状を考慮しながら処方しますが、患者さんによって効く効かないがあります。どういう患者さんなら抗うつ薬が効くのかはよく分かりません。

過労でうつ病になった人が、薬をのんでさらに仕事をがんばるみたいなのはNGですから、どういうつもりで薬の服用を考えているのかは確認します。

抗うつ薬や 抗うつ作用のある抗精神薬の副作用としては、体重が増える、血糖やコレステロール、中性脂肪が上昇するなど、代謝が落ちることがあります。これも出る人出ない人がいます。薬の効果のある人の方が副作用の発現率が高いようにも見えますが、そうでない方もいて、詳細は分かりません。

”うつ” に関しては、また後で追加説明します。 私は “うつ” をうつ病の中核症状という意味で使っています。 参考記事:うつ病診断症状

抗不安薬

抗不安薬は不安を和らげる即効性のある薬ですが、依存性の問題もあり、近年ではあまり出さない方向になっています。使うとしても、外出のためとか、人と会うためとか、会議のためとか、何かするために頓服で使うのがいいと思います。

補助的な位置づけとなる薬物治療についての説明は、このブログの主旨とは異なりますので、これくらいにしておきます。

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