うつ病には、気分の落ち込み、不安、意欲の低下、食欲不振、不眠、思考抑制、妄想などがありますが、症状を列記しても、分かりにくいと思うので本質的なお話をします。
うつ病の本質は「存在・アイデンティティの危機」
うつ病を一言で表すと、「存在・アイデンティティの危機」となります。具体的に説明します。
たとえば、ある人がヤクザから金を借りたけど返せない。「明日、組事務所に来い!」と、ヤクザから言われているけど、行ったら殺されるかもしれない。借金した人にとってこの事態は自分の命の 存在の危機になる訳ですよね。こんな時、前日の夜に布団に入ってぐっすり眠れますか? 御飯おいしく食べれますか? ご飯の味なんて分かりますか? この落ち着かなさ、不眠、食欲不振が ”うつ”の症状になります。
上記の命の危機を想像してもらうと分かるように、”うつ”は、不安・恐怖に近く、そわそわして落ち着かない感じです。誰一人として助けに来てくれないまま、処刑台に引きずり出されていく絶望寸前の状態です。
これはDSM-5診断基準による所の、うつ病患者の不安性苦痛に近いと思います。
1) 張りつめた、または緊張した感覚
2) 異常に落ち着かないという感覚
3) 心配のための集中困難
4) 何か恐ろしいことが起こるかもしれないという恐怖
5) 自分をコントロールできなくなるかもしれないという感覚
ここらへんの感覚が、 ”うつ” (うつ病の中核症状) であって、それ以外のだるさや無気力、思考抑制、妄想、神経症的な症状は、派生症状と考えています。 ”うつ”はうつ病とは区別しています。そして純粋な“うつ”は少ないと思います。
”うつ” に近いか判断するのに、中途覚醒や味覚消失を参考にすることもあります。
社会的存在意義の喪失とうつ病
人間は肉体だけの生き物ではなく、社会的な生き物でもあります。つまり社会的な存在意義を失うことによっても、 “うつ“になり得ます。
「空の巣症候群」
よくある例ですが、お母さんが子育てに熱心で一所懸命子供を育ててきたけど、子供は独立し家を出て行ってしまった。子育てが自分の存在意義になってしまったために、それを失い”うつ”になってしまったというお話です。その他にも仕事熱心だった人が、退職後に”うつ”になってしまうという例もあります。
熱心なのは悪い事ではありませんが、一つのことだけに存在意義を偏らせてしまうと”うつ”になりやすくなります。
どこに存在意義・アイデンティティがあるかを探る方法
”うつ” (うつ病)になった時、みなさんはきっかけになった出来事に注目するとは思いますが、同時に、「自分の何が脅かされて」 ”うつ”になったかという視点で見つめ直すのをお勧めします。存在意義やアイデンティティの詳細が分かれば対応もしやすくなると思います。
しかしながら一口に存在やアイデンティティの危機と言っても、どこにそれがあるかは”うつ”になっている本人も意外に分かりずらい時もあります。
たとえば、失業して”うつ”になってしまった場合でも、単純に「仕事が存在意義」だったというのは早計かもしれません。深掘りしてみると、本当は社会的評価だったのかもしれないし、お金だったかもしれない、一家の大黒柱としての地位なのか?、それとも会社の人間関係なのか?、単に仕事中毒だったのか? いろんな可能性があると思います。
どこにアイデンティティがあるかを探る方法
そんな時は仮定法で自問自答してみて、可能性を探るのも一つの方法です。たとえば、
もし次の仕事が決まっていたら”うつ”になっていないか?
→「いいえ、次の仕事が決まっていても”うつ”になっていました」の場合、職場の人間関係や やっていた仕事にアイデンティティがある可能性あり。
もし十分な貯金があったら”うつ”になっていなかったか?
→「はい、十分な貯金があれば”うつ”になっていません」の場合、お金に関する部分がアイデンティティになっている可能性あり。お金が入ってこないことへの恐怖など。
もし独身だったら”うつ”になっていなかったか?
→「はい、独身だったら”うつ”になっていません」の場合、家族関連のどこかにアイデンティティがある可能性あり、失業することで家族関連の何かが崩れる。たとえば、一家の大黒柱としての地位など。
参考にしてみてください。