41、先生、精神病って治りますか?

治療

診察していると、たまに「治りますか?」と聞かれることがあります。精神病がこのまま治らないのではないかと心配されているのだと思いますが、この質問は非常に難しく、答えるのに苦労します。なぜかというと、私自身が治っているとは思ってないので、よく分からないからです。

一応外来では、「精神病の治療のゴールがどこかというのは難しいんですが、治っていく過程で生活や仕事もできるようになりますし、友達ができたり彼女(彼氏)ができたり家族ができたり、いろいろ楽しいことや幸せなことも経験できます。」と答えていますが、納得いただけているかは分かりません。

このブログを読んでお分かりの様に、私は妄想を含め思考が多すぎると思ってます。さらにここから良くなるには、思考を減らす必要があります。目標は発症前 すなわち子供の頃の精神、自由で、感受性が豊かで、集中力の高い精神ですが・・・。

精神病の治り方

そういうわけで、ここでは私の知っている範囲での精神病の治り方を説明します。

折れ線の目が粗いのは大目に見ていただくとして、精神病は上の図のように、良くなったり悪くなったりしながら徐々に改善していきます。 たまに何らかのきっかけで気付きが起こり、急に症状が改善することもあります。(参考記事、認知行動療法 大きな変化があった時は言葉を失う 認知行動療法 無意識は自分と他人の区別がつかない)大きな改善といっても、それで終わりということではなく、長期的に見れば、治療全体の中の一部です

上のグラフは右肩上がりで、時間経過と伴に良くなっていますが、実はこれは周囲の人から見た改善の様子であって、患者自身の感覚だと下の図のようになります。

周囲からは一見良くなったように見えても、体感では長らく つらい時期が続くと思います。たぶん、これは段々と良くなるにつれ冷静になり、状況の大変さが理解できるようになってくるためと、また良くなる過程は、常に困難なことへのチャレンジで、その度に不安・緊張を強いられるので、ある一定レベルに到達するまではしんどく感じるのです。ずっと死と隣り合わせの崖っぷちを歩いているようなものです。

昔は精神病は、発症期だけでなく ある程度改善してきた時期も自殺しやすいと言われていましたが、本人にしてみると「こんなに頑張っているのに全然よくならない、これからもこのつらさが続くんだったらいっそのこと」と思ってやってしまうんだと思うんです。ここからもう一踏ん張り、二踏ん張り、三踏ん張りだと思うので、早まらないでください。辛抱強くやっていれば、どっかの時点で尻上がりに良くなります。良くなるまでは大変ですが、良くなった状態を維持するのは はるかに楽です。

上の説明でお分かりと思いますが、つらい時期で 症状が横ばいというのは良くなっていると 判断していいです。しかし逆に良くなった段階で、停滞感があると、客観的には後退している可能性もありますので、どの段階でも「もう、これくらいでいいや」と思わない方がいいかもしれません。

治療をけん引する原動力

精神病は他の内科や外科の病気と違って、治したいと強く思い過ぎるのもあまりよくありません。治そうと思えば思う程、症状に意識が向かい、逆に症状が強くなってしまいます。強迫観念を治そうと強迫観念に意識を当てると、強迫観念・確認行為が強くなってしまいます。これは妄想や幻聴、パニック症状、”うつ”でも同じで、気にしないでやっていく方向が、作業療法であり認知行動療法でもあり、治る方向でもあります。振り返ってみて、「そういえば、良くなっていた」という感じに治っていきますので、治そうと強く思わない方がいいです。禅問答みたいですが、治そう治そうと思っているうちはまだまだ治りません。また症状に一喜一憂しているうちも、まだまだです。症状が良くなったと思っても喜ばないように気を付けてください。

治そうと思い過ぎないようにするのであれば、何をもって治療をけん引していくのでしょうか。月並みな言葉で言ってしまえば、夢や希望、プライド、人とのつながりです。これらはその時の自分の心理状態にあった目標でいいので、本心から思えるのがいいです。たとえば、彼女が欲しいとか車が欲しいとか、金を稼ぎたいとか自分の欲求を満たすものでいいですし、ここでは書きませんがもっとゲスなものでもなんでもいいです。プライドと書いていますが、「こんなクソな連中に負けたくない」とか「これを失うと自分には何も残らない」とか差別的・依存的なものであっても、どん底の時は それらも支えとなり 現実に踏みとどまるための拠り所となるでしょう。良くなってくると 差別的・依存的な支えは修正を迫られ 手放すことになりますが、最終的な目標は 症状をなくす (精神病を治す) のではなく幸せになることです。極論を言えば、症状があっても幸せになればいいのです。

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