山下メソッドとは?
山下メソッドとは、うつ病の「存在・アイデンティティの危機」に焦点を当てた山下版CBTです。きっかけの深掘り+依存からの脱却を促す独自メソッドです。前回、この認知行動療法についてご説明させていただきましたが、さらに例を挙げてご説明したいと思います。
認知行動療法の新提案|山下メソッドで「うつ」の本質にアプローチ
症例1|「LINEの返信が来ない」
前回の記事の一般的な認知行動療法のところで挙げた例ですが、山下メソッドの場合どうなるかご説明します。
①自動思考の記録
方法: 不安や落ち込みを感じたときに、「その時浮かんだ考え(=自動思考)」を紙に書き出す。
- 状況:「LINEの返信が来ない」
- 自動思考:「嫌われたかも」
- 感情:「不安」「悲しい」
② 認知の再評価
方法: 自動思考が現実的かどうかを検討し、別の考え方や根拠を探す。
例:
「返信が来ないのは忙しいだけかも」「まだ判断するのは早い」「この前会話した時は、普通に会話してくれた」など
一般的な認知行動療法では、上記のようになりますが、山下メソッドでは➁の部分が「原因の深掘り」に変わります。
➁認知の再評価 ➡ ➁原因の深掘り
方法:うつの原因を深堀りする。
「なぜ、これでうつになってしまったのか?」
「自分の何がおびやかされたのか?」
➡「”友達に良く思われたい自分” がおびやかされたのかもしれない」
ここまでくれば、次の行動は分かると思いますが、その執着している自分像を手放す方向に歩むというわけです。もちろん一般的な認知行動療法の「②認知の再評価」を一緒にやるのもいいと思います。
症例2|「電話がかかってきた」
①自動思考の記録
- 状況:「家で仕事中、友達から電話が掛かって来た」
- 自動思考:「こんな時に電話してくるなんて、非常識だ」
- 感情:「イライラ」「怒り」
➁原因の深掘り
「なぜ、これでイライラしてしまったのか?」「自分の何がおびやかされたのか?」
➡ もしかしたら自分は仕事中毒になっているのかもしれない。仕事に追われ、いつも仕事のことで頭が一杯だった。ちょっとしたつまずきで、”仕事(本人が依存している)”を維持できなくなると「うつ」「イライラ」「怒り」「不安」などが出ます。
この場合、仕事への依存を手放すということになります。仕事が悪いわけではありません。具体的には、休養を取って、頭から仕事を完全に切り離す時間を作る必要があります。
症例3|「上司に怒られた」
「何に依存しているのか?」「自分の何がおびやかされたのか?」が、なかなか見えない時もあるので、その場合の深掘り質問を紹介します。
①自動思考の記録
- 状況:「上司に怒られた」
- 自動思考:「俺ってダメだな」「あの上司いつも怒ってばかりでふざけるな!」
- 感情:「落胆」「怒り」
②原因の深掘り
例:
「自分の何がおびやかされたのだろう?」
自分は仕事中毒でもなさそうだ。
よく分からない場合は、さらなる深掘り質問を仮定法でやってみます。
仮定法を用いた内面の探索
深掘り質問:例1
「もし上司が別の人だったら、”うつ”になっていただろうか?」
別の上司だと”うつ”になっていないと思われる場合、さらに深堀り質問。
「怒った上司と別の上司との違いは何だろう?」
➡ 実はその上司は仕事ができなくて、私は軽蔑していた、その軽蔑していた上司に怒られたから、”うつ”になってしまった。
この場合、 ”自分が上で相手が下” という認識の土台が崩されたということになりますので、それを手放すのが治療の方向になります。
深掘り質問:例2(この怒ってきた上司が女性上司という設定で)
「もし上司が男の上司だったら、落ち込みはなかっただろうか?」
男の上司だったら落ち込んでいないと思われる場合、さらに深堀り質問。
「なぜ男の上司だと落ち込まず、女の上司だと落ち込むのだろうか?」
➡ 実は自分に女性蔑視の思想があることに気が付いた。
その場合、女性蔑視の世界観を捨てるのが「うつ」が治る方向です。
深掘り質問:例3
「もし怒られた時、 周囲に人がいなかったら、 ”うつ”になっていなかったか?」とか
「もし怒られた時 、〇〇ちゃんが近くに居なかったら、 ”うつ”になっていなかっただろうか?」
もしYesなら、その人たちが自分にとってどういう存在なのか、その人たちの視線はなぜ気になるのかを深掘りしていきます。それによって対応をしていきます。
精神分析的視点を行動活性化につなぐ
自分の何がおびやかされたかという視点で自分の内面を見つめると、深堀り質問の方向性が何となく分かってくると思います。上記のようにいろいろな質問を投げかけることにより原因の深掘りができ、対策もしやすくなります。
たとえ「自分の何」がおびやかされたか分からなくても、「何かがおびやかされた」「それを手放す」というのが治療の方向なので、分からないままでも手放すつもりで行動活性化をしていただければ、それも治療につながります。
相手のこころの分析と注意点
いろいろ考えても、うつ病の原因や依存しているもの が見つからない場合、相手への分析を行うこともあります。
注意点
ただ ”うつ” や不安や怒りの時は、たいてい相手が悪く見えるものなので、”うつ”になった理由として相手だけが悪いわけではないという認識は持っておいた方がいいかもしれません。信頼できる第三者に意見を聞くのもいいと思います。
また相手のこころを分析するのは、自分の精神病を治すため、もしくは相手の精神病を治すためだけにしてください。興味本位で相手のこころを読んでいると、読む読まれるの人間関係性に陥り、「他人に自分のこころが読まれている」などのいわゆる統合失調症の思考伝播みたいな症状が出てくる可能性があります。
相手のこころの分析
まず相手の発言の背景にある、気持ち・動機を探ります。
相手の方も、かつて上司から怒られながらやってきてたとしたら、そのやり方を逸脱する部下を見ると、イライラして強く叱ってしまうのかもしれません。
また上記の「深掘り質問:例2」で、逆に女性上司に男尊女卑がある場合も、無能と思っている男性には必要以上に厳しく当たるのかもしれません。
相手のこころが見えれば、対策も取りやすいと思います。さすがに相手に勝手な精神分析を述べる訳にはいかないでしょうから、叱責が度を越している場合はパワハラですので、しかるべき部署に相談してください。
パワハラでは正しい事象にのせて、自分のこころの問題を、弱い立場の人にぶつけるのが常套手段ですから、相手が正しいことを言ってるかどうかでは判断せずに、相手の発言の裏にある気持ちや動機、人間関係性で判断してください。観察力が相手への抑制力になることもあります。
パワハラの対処法は下記の記事に書いていますのでよろしければ参考にしてください。
マウントやパワハラへの心理的対処法①
マウントやパワハラへの心理的対処法②