認知行動療法:山下メソッド③|人間関係性の変容を目指す新たな方法

海を背景に足る特急 雑談

認知行動療法を行う上での視点

山下メソッドの第三弾、今回は別の角度から認知行動療法について理解を深めてもらいたいと思います。

無意識レベルでの「認知の再評価」が行われれば劇的に変化しますが、これがなかなかに難しい。前にもお話したように、認知行動療法は知識だけではなく体に叩き込む必要があります。

私のやり方は、前提知識が必要になることが多く、「認知の再評価」を説明する前に、妄想と愛の定義について再度お話しさせていただきます。

妄想について

私の言う妄想の範囲はかなり広いです。妄想については再三お話していますが、現実・非現実かでは見ていません。妄想を経験した私からすると、現実か非現実かという見方は全然 科学的でもなく、論理的でもありません。

妄想とは、他人や自分を傷つける考え方で、現実であっても妄想は妄想です。自責や他責、不平・不満はすべて妄想になります。

また誇大妄想については、自慰的な思考で、その思考に依存的になり、その思考がなくなると “うつ” になる思考 すべてを誇大妄想と呼んでいます。空想類も浸り過ぎると誇大妄想です。

愛について

次に愛について説明します。愛を説いている人は愛がありそうに見えますが、私に愛があるということでは全くありません。そうではなく、愛とは、妄想とは対極にある人間関係性で、れっきとした科学であるということです。妄想という概念が精神医学の中にあり科学というのであれば、愛も科学と言っていいでしょう。

愛を説明するのに、無償の愛という表現がよく使われます。見返りを求めずに相手のために尽くす気持ちや行為をいいますが、この説明は非常に分かりにくい。

もっと分かりやすく言うと、”本当に優しい人は自分が優しくしていることに気付いていない” ということです。だから、見返りを求めないし、やってあげてるといった自己犠牲感もないんです。強い妄想に病識がないように、強い愛にも病識(自覚)がないのです。

ただ、一人の人間が持っている人間関係性は複数あって、ほとんどの人は愛と妄想が混在しています。精神病の治療は妄想の人間関係性を減らして、愛の人間関係性を増やしていくことです。

認知行動療法|山下版「認知の再評価」

前置きが長くてすみません。それでは認知行動療法の本題に入りたいと思います。

山下版「認知の再評価」では次の3つのコースを用意しました。

【特急コース】他人の幸せを願う祈りの実践

“うつ”と存在の危機|無意識の力と祈りによるもう一つの治療法でもご説明しましたが、祈りの力を使う方法。この祈りは自分のためではなく、他人の幸せを祈ります。 ”うつ” (存在の危機)の時の祈りは、絶望の中での祈りになります。例えると、「もう私は死ぬかもしれない」という無力感の中で、家族の幸せだけを願いながら、死地におもむく感じです。(やくざに呼び出しを食らった症例)

他人のための祈りは、それ自体が、「気にしない」「とらわれない」ようにと 外側に意識を向ける行為で、作業療法や暴露反応妨害法と同じ効果があります。また、”うつ”の時、無理やり楽しいことを考えるのは、誇大妄想や躁状態になりやすく、いずれ”うつ”に舞い戻ってしまいます。ネガティブにもならず、誇大妄想にもならずと、そんな都合のいい思考は、他人の幸せを祈る以外にないと思います。さらにうまくいけば、妄想の人間関係性から愛の人間関係性に変われるかもしれません。人のためというのは、本当は自分のためなのです。

前々回の記事で、一般的な認知行動療法として取り上げたLineの1例ですが、その症例で「認知の再評価」がどうなるか考えてみたいと思います。

① 自動思考の記録

方法: 不安や落ち込みを感じたときに、「その時浮かんだ考え(=自動思考)」を紙に書き出す。
例:

  • 状況:「LINEの返信が来ない」
  • 自動思考:「嫌われたかも」
  • 感情:「不安」「悲しい」
② 認知の再評価

Lineの相手の幸せを祈り、「他人の幸せを願う人間関係性」が無意識にまで染み込めば、どのような認知(自動思考)になるのかというと、

例:
「〇〇さん、どこか具合が悪いのかなー。何かお手伝いできることあるかな~。」
「〇〇さん、今はそっとして欲しいのかな?」「そうであれば、そっと見守ってあげよう。」となり、不安とか悲しいなどの感情はなくなります。

この祈りは、Lineの相手でなく、別の人に祈ってもOKです。また感謝でもOKです。人のためという愛側の思考が、無意識に浸透するまで繰り返し繰り返しやってください。

【快速コース】人を愛せる人間になるためのコース

特急コースで、自己犠牲感が出てしまうなどして、どうしても純粋に他人の幸せを祈れない人は、無理しなくても大丈夫です。自己犠牲感があると、他人の幸せを祈っても無償の愛にはなりません。また良くなりたいと見返りを求めても無償の愛にはなりません。こういう方はこの快速コースをお勧めします。

まずこのコースでは、自分には人を愛する力がないことを認めるのがスタートラインです。その上で、自分も人を愛せる人間になりたいと強く願ってください。そして自己犠牲感なしでできる無償の愛の実践を、コツコツと積み重ねていくのがこのコースになります。いきなりマザーテレサみたいにはなれませんから、身の回りの小さなことから始めてください。これが、快速コースの認知行動療法になります。具体的なやり方は下記の記事にあります。
精神科医が語る「愛」と認知行動療法|強力な治療法の実践

このコースは、元々妄想が多めだけど愛の存在も理解できている方 向けです。この認知行動療法で認知の仕方が変われば、劇的に世界観が変わります。スピリチュアル的に言えば世界線が変わります。(中二病なので意味分からなくていいです。)どのように変わるかは、人それぞれですし、またそれを言うことによって皆様に先入観を植え付けたくないので、あえて言いませんが、少なくとも希死念慮がなくなるレベルとだけ言っておきましょう。

人を愛せる人間になりたいとだけ願って、この認知行動療法を丁寧にやっていってください。

【各駅停車コース】自由を目指す生き方

愛なんてどこにもない、他人を愛する気なんてさらさらないという方は、各駅停車コースをお勧めします。このコースは愛ではなく自由を求めるコースです。時間はかかりますが、しっかりと深い人生を味わえます。

このコースを選んだ方は、不平、不満などの思考・感情が強いと思います。そのほかにも憎しみや嫉妬などがあるかもしれません。これらの思考・感情は、人生が自分の思い通りにいっていないことの顕れだと思います。あなたは自由になりたいと思っているけれど、自由になれない。あなたは何に縛られていますか?

たぶん誰か もしくは何かに依存があるか、誰か 何かからの束縛があるのでしょう。

あなたが自由になるために必要な認知行動療法は、依存・束縛からの脱却、すなわち自立です。自由な生き方をするためには、自らの選択に責任を持つ必要があります。人のせいにはできません。束縛から飛び出すのも、時期が来るまで忍耐を選ぶのも、すべて自分の責任で選んでください。他人に意見を求めてもいいですが、最終的には自分の責任で決める必要があります。

この各駅停車(自立)コースは症状を引きずりながらの大変なコースではありますが。焦らずゆっくりでいいので、一歩ずつ自分で決めて行動していってください。このコースの途中途中の体験は、大金を払っても買えないようなかけがえのない宝物となるでしょう。

自立の詩:自分で決める生き方へのエール

最後にこのコースを選んだ人の覚悟を称えて、自立の詩を詠みたいと思います。

お父さん、もう僕に何も言わないで、何もしないで
僕は自分で考えて、自分で決めたいの
僕はお父さんみたいに、すぐ気が付けないし、うまく考えられないけど
自分で気付いて、自分で考えたいの
そうしないと、僕は何もできない大人になってしまう

誰も責任とれないんだから、どうせ失敗するなら自分で決めて失敗したいの
でも、本当に危ない時は助けて欲しいかな
でも、ぎりぎりまで手を出さないでね
たとえ間に合わなくても文句は言わないよ
その時は屍(しかばね)をそっと抱き上げてくれればそれで十分だから

(ここでは対象をお父さんにしましたが、あなたにとって自立したい人に変えてください)