統合失調症の遺伝子研究
統合失調症は、およそ100人に1人が発症するとされ、遺伝と環境の両方が要因になるといわれています。しかし、統合失調症に特有の遺伝子はまだ同定されていません。少なくとも単一の遺伝子ではなく、複数の遺伝子群が関与しているのではないか、と推測されている段階です。
統合失調症の本質
精神科医エミール・クレペリンは、統合失調症にみられる多様な症状を整理し、理解しやすいように「統合失調症」という診断名の下にまとめました。
しかし本質的には、統合失調症は単一の疾患ではなく、複数の症状の集合体=症候群です。その意味で、「統合失調症」という病気が独立して存在するわけではなく、あくまで便宜的な呼び名にすぎません。
症状別に見る「症状遺伝子」の可能性
もし遺伝子研究を行うのであれば、統合失調症全体の遺伝子を探すよりも、症状ごとの遺伝子を探した方が現実的だと私は考えます。たとえば、思考障害に関わる遺伝子、幻覚に関わる遺伝子、不安やパニック症状に関わる遺伝子、強迫症状、心気症(腹痛や頭痛など)、だるさ、気分高揚など、それぞれの症状に関連する遺伝子です。
私の遺伝子仮説
遺伝子研究の専門家ではない私が仮説を立てるのは大胆かもしれません。しかし、精神病の理解はまだ発展途上で、統合失調症の代表的な「ドパミン仮説」ですら仮説の域を出ていません。ならば、私の仮説も許されるでしょう。
精神病の発症要因は「人間関係性」
統合失調症に限らず、精神病の根本にあるのは「人間関係性」だと私は考えます。
人間関係性が妄想に傾くと、思考そのものがその影響を受け、幻聴などの症状も同じ傾きを帯びます。被害的なとらえ方が強くなれば、不安や恐怖、抑うつ、倦怠感も生じやすくなります。
つまり、精神病とは、人間関係性が妄想に傾くことで発症するものと考えています。
ここでいう妄想とは、「自分や他人を傷つける考えや行動」を指します。現実か否かで線引きするものではありません。憎しみ、嫉妬、嘲笑、いじめ、不平不満、他責、自責、自己卑下、希死念慮などはすべて妄想に含まれます。
人間関係性が環境要因を作り出す仕組み
人間関係性が妄想に傾くと、その歪んだ視点で世界を見てしまい、実際には存在しない悪意すら感じ取ってしまいます。さらに、たとえ現実に悪意があったとしても、そこに深く巻き込まれてしまう背景には、本人の人間関係性のあり方が大きく関わっています。
こうした出来事は、本人には周囲との摩擦やトラブルとして映ります。いわゆる「環境要因」も、突き詰めれば本人の人間関係性が形づくったものなのです。
症状遺伝子と発症の仕組み
私の仮説では、「症状遺伝子」は人間関係性が妄想に傾くことで発現します。どの症状遺伝子を持っているかは人によって異なるため、同じような妄想の人間関係性を共有していても、発症の形態は人ごとに異なります。
一卵性双生児は同一の遺伝子を持ちながらも、統合失調症の発症一致率はおよそ50%にとどまります。これは、遺伝子の有無だけで発症が決まらないことを示しています。
私の考えでは、遺伝子はあくまで「発症の素地」であり、そこに人間関係性が妄想に傾くことで、初めて発症の引き金が引かれます。そして、同じ遺伝子を持つ二人が妄想の人間関係性に傾けば、似たような症状が現れやすくなる。逆に人間関係性が穏やかであれば発症はしないのです。
この人間関係性の問題は、精神病だけでなく、免疫系やホルモン系など、さまざまな疾患にも影響を及ぼす可能性があります。
遺伝子は「欠陥」か、それともギフトか
医学の世界では、精神病に関連する遺伝子はしばしば「欠陥」や「異常」というマイナスのイメージで語られます。しかし私は、それらの遺伝子を必ずしも否定的に捉えていません。
むしろ、こうした遺伝子は“妄想が暴走するのを防ぐストッパー”として働く可能性があります。もしこのストッパーが一切なかったら、どんなに極悪非道な状況でも症状が全く出ず、周囲を顧みない危険な行動に突き進んでしまうかもしれません。それは一見冷静に見えても、“血も涙もない存在”に映るでしょう。
そう考えると、精神病の症状遺伝子は、人間が人間であるための安全装置であり、神が与えたギフトの一つともいえるのではないでしょうか。
コメント