発達障害の臨床的考察

症状

近年、発達障害と診断される患者さんが増えてきています。それはなぜでしょうか。
自閉症は幼少期から、注意欠陥多動障害(ADHD)は学童期から特徴が見られており、発達障害そのものは昔から存在するものです。決して新しく生まれた病気ではありません。

発達障害は本来、人間の気質や性質の延長にあるものです。たとえば音楽が得意か苦手か、運動ができるかどうかと同じく、正常と病気の間に明確な境界はなく、連続したスペクトラムとして存在します。

近年増えているように見える理由としては、このスペクトラムをより広くとらえるようになったこと、そして精神病との誤診が含まれている可能性があると私は考えています。

自閉症

典型的な自閉症は「コミュニケーションの苦手さ」や「反復行動」で説明されますが、スペクトラムの幅が広いため、軽度の場合は反復行動が見られないこともあります。
一方で、関心のある分野では驚くほどの集中力を発揮することも珍しくありません。

私の推測ですが、自閉症の中心的特徴は「自分の世界へのこだわり」、より正確には「こだわりから離れられない性質」にあると感じています。自分の枠を壊されることへの恐怖があり、それが侵されると強い混乱や癇癪となって表れる。他者とのコミュニケーションも「枠を壊されるリスク」があるため、回避しやすいのだと思います。

この「こだわりの強さ」が、精神病──とくにうつ──につながりやすいのではと考えています。なぜなら、アイデンティティが崩れるとき、それは「うつ」を意味するからです。
参照記事:うつ病の本質とは何か?

アスペルガー症

かつては、自閉症には知的障害があるとされ、知的障害がない自閉症を「アスペルガー症」と呼んでいました。知的水準が高ければ、ある程度は自閉的傾向をカバーできるので、正式に診断を受けていない方も多いと思います。

このアスペルガー的傾向の方は、医師を含めた専門職や資格職に少なからずいると感じます。集中力を持続させることができ、コミュニケーションをあまり必要としない勉強や試験に適性があるからです。資格や専門知識が立場を守ってくれる仕事なら、多少のコミュニケーションの苦手さがあっても社会でやっていけるのだと思います。

現在は、自閉症の診断に「知的障害の有無」を含めないのが主流です。

注意欠陥多動障害(ADHD)

ADHDは、集中力が続かない、気が散りやすい、意識がすぐに別の方向へ移ってしまう、といった特徴を持ちます。

私の考えでは、自閉症が「こだわりから離れられない」のに対し、ADHDは「一つのことに強く留まれない」。言い換えると、「気持ちの切り替えが速い」ともいえるかもしれません。

ADHDと精神病の見極め

ADHDは、誤診が含まれている可能性があると考えています。というのも、精神病でも集中力の低下や注意の持続困難、気の散りやすさはよく見られるからです。

見極めのポイントは「気質」や「性格」。
くよくよしやすく気持ちの切り替えが苦手なら、それは精神病由来の症状の可能性が高いでしょう。

一方ADHDの場合は、まず周囲がその切り替えの速さや落ち着きのなさに戸惑い、やがて理解やサポートが得られにくくなり、その後に本人が「どう生きていけばよいのか」と途方に暮れる──そうした経過をたどることが多いのではないでしょうか。

ADHDに向いた仕事

会社や学校では「上の言うことをちゃんと聞いて、期待されたことを着実にこなせる人材」が理想とされます。それはコミュ力があって集中力が持続できる人材ということにもなりますが、そう考えるとADHDはかなり不利な立場です。

では、どんな仕事が向いているのでしょうか。

私は、トランプ大統領の生き方が一つのヒントになると思います。彼は物事を突き詰めて考えず、行き当たりばったりの発言をします。その姿には、ADHD的な特性が見え隠れします(被害妄想や誇大妄想的な部分は好ましくないにせよ)。

大統領になるのは難しくても、起業してトップになるという道は現実的です。「鶏口となるも牛後となるなかれ」、組織に従うより自分で主要な部分の舵を取り、細かい部分は他人にお願いした方がいいと思います。

起業しない場合でも、ADHDに向いた職種としては、気持ちを切り替える特性を活かせる仕事が良いでしょう。

  • 株やFXのトレーダー:ADHDの「気持ちをすぐに切り替えられる特性」は、損得に一喜一憂せず、想定外の相場でも柔軟に対応できる力になります。
  • 不動産業:予想外の事態や住人とのトラブルが多い分野ですが、すぐに気持ちを切り替えて次に進める特性が大いに役立ちます。トランプ大統領も不動産業から出発しています。

ADHD気質以外の要素、興味があるかないか・本人の特性や能力で向き不向きもありますので、実践は自己責任でお願いします。

最期に

発達障害は「病気かどうか」という白黒で語れるものではありません。むしろ人間の気質の一部であり、その人の特性に合った環境や仕事を見つけることが大切です。

なお、当院では発達障害の診断は行っていません。この記事はあくまで一精神科医としての雑感として受け取っていただければ幸いです。

【追記】薄っぺらな記事になってしまったので追記します。
最も大事なのは、どの人間関係性で自分の気質や能力を使うかです。優しさや思いやりといった愛側の人間関係性で使えば長所になりますが、妄想の人間関係性で使えば短所になります。コミュニケーション力も人間関係性に大いに影響を受けます。愛側の人間関係性でやっていけば自ずと道は開けるでしょう。

仕事についての考え方は、「精神疾患からの回復に有益な『仕事』と『結婚』という視点」の記事を参考にして下さい。

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