認知行動療法については、書籍やウェブサイトでいろいろ公開されていますが、私のやり方は他と少し違う気がしますのでやり方を説明したいと思います。まず一般的な認知行動療法について説明します。
一般的な認知行動療法(CBT)
一般的な認知行動療法は、うつ病(精神病)の症状が出ててきた時に、その時の感情や思考を観察し、それに対し、違う考え方ができないかと検証していきます。たとえば、
自動思考の記録
方法: 不安や落ち込みを感じたときに、「その時浮かんだ考え(=自動思考)」を紙に書き出す。
例:
- 状況:「LINEの返信が来ない」
- 自動思考:「嫌われたかも」
- 感情:「不安」「悲しい」
② 認知の再評価
方法: 自動思考が現実的かどうかを検討し、別の考え方や根拠を探す。
例:
「返信が来ないのは忙しいだけかも」「まだ判断するのは早い」「この前会話した時は、普通に会話してくれた」など
③ 行動実験
方法: 不安や思い込みを検証するための小さな行動を実際にやってみる。
例:今度会った時、こちらから声掛けしてみようなど
認知行動療法(CBT) : 山下メソッドとは?
それでは、山下メソッドを紹介します。この方法はうつ病の「存在・アイデンティティの危機」に焦点を当てた山下版CBTです。きっかけの深掘り+依存からの脱却を促す独自メソッドですが、うつ病に対する構造的な理解が必要なので、まずそちらから説明します。
”うつ”の構造
うつ病を一言で表すと、「存在・アイデンティティの危機」となります。
たとえば、ある人がヤクザから金を借りたけど返せない。「明日、組事務所に来い!」と、ヤクザから言われているけど、行ったら殺されるかもしれない。本人にとってこの事態は自分(命)の 存在の危機になる訳です。こんな時、不安で落ち着かないですよね。前夜に布団に入ってぐっすり眠れますか? 御飯おいしく食べれますか? ご飯の味なんて分かりますか? この不安・落ち着かなさ、不眠、食欲不振が うつ病の症状になります。この他にも、気分の落ち込み、だるさ、何も考えられない、妄想(例:自分はダメな人間だ)なども出ることがあります。
うつ病の本質とは何か? より抜粋
さらに、人間は肉体だけの生き物ではなく、社会的な生き物でもあります。失業や離婚など、社会的な存在の危機に直面しても、”うつ”になりえます。同様に、周囲の期待に応えないといけない自分が崩れてしまった・できなくなった、というのも存在の危機になることがあります。
認知行動療法:山下メソッド
ステップ①きっかけの把握
私の方法は、うつ病の症状が出た時に、まずきっかけになった出来事を把握します。次に「このきっかけで、なぜうつ病に陥ったのか?」というのを深掘りしていきますが、ここが大きな特徴だと思います。
ステップ② 深堀り質問で拠り所を見つける
うつ病は「存在の危機」と先ほど説明しましたが、「なぜ、うつ病に陥ったのか?」という質問は、言い換えると「自分が拠り所としている何かが崩れた。それは何か?」とも言うことができます。「自分の何が崩れた?」「自分の何がおびやかさた?」「それは何か?」という質問をまず自分に投げかけてみてください。
ステップ③ 手放す / 覚悟を決める
そして自分の拠り所・アイデンティティの危機というのが分かれば、「それに依存しない」、「それを手放す」、「それを手放す覚悟をする」、という方向に自分を持っていければいいのです。拠り所がなくても落ち着いていられるようになれば、うつ病は改善していることになります。
症例検討
これを説明するのにちょうどいい症例があるので紹介します。
症状発症までの経緯
患者Aさんは30歳前半の男性の方で都内の企業にお勤めの方でした。そろそろ実家に戻りたいと考え転職活動をして無事内定をもらえました。上司に1ヶ月後に辞める旨を話し、それを社長に伝えてもらったところ、社長の逆鱗に触れてしまいました。「せっかく仕事を教えてあげたのに、辞めるとは何事だ」と、社長は大変ご立腹でした。それでAさんは ”うつ”になってしまったのです。診察でのやり取りです。
医者:転職先も決まってるし、何言われても気にしないで、次に行けばいいじゃないですか。
A :いえ先生、社長が怖いのもありますが、実はそうじゃないんです。お恥ずかしい話ですが・・、
A :いつもエッチな妄想していたために、ちょっと怒られただけで大事な時に踏んばりが効かなくなってしまったのです。”うつ” の原因に妄想?依存? より抜粋
ここで紹介したA君ですが、実はこれ私です。この頃は精神的にはだいぶ良くなり、見た目は普通に仕事をしていました。
この企業というのは大学の医局で、社長というのは教授のことです。教授はアカデミアの頂点にあり、私の浅はかな知識では到底足元には及ばない存在です。医局員(医者)や学生の指導という重責も担っていて、さらに人事権も持っているので、恐れ多くて私はできるだけ近づくのを避けていました。
私はそこの大学医局に中途入局してから、1年位で辞めると言い出したので、教授の逆鱗に触れ、それがきっかけで、”うつ”になってしまったのです。教授回診や症例検討会の時はとても怖かったです。
深掘りで見えた「妄想世界」の依存
私は”うつ” になった時、「あれ?、俺は統合失調症か強迫神経症のはず」「なぜ ”うつ” になってしまったんだろう?」という疑問が出ました。「なぜだろう?」とその疑問を深堀りした時、「いつもエッチな妄想ばかりしてたからだ」、「だから、こんな転職の大事な時に力が入らないんだ」ということに気が付きました。同時にうつ病と統合失調症と神経症には境界がないことにも気が付きました。
教授の逆鱗は、私を否が応でも現実に向き合わさせ、ぬるま湯のエッチな妄想世界を吹き飛ばすほどの迫力がありました。
つまり、教授から怒られたのは単なる”うつ”のきっかけであって、実は自分のエッチな妄想世界が崩れたから、”うつ”になってしまったということなんです。「自分の何かがおびやかされた」「それは何か?」という問いに対し、A君の場合「エッチな妄想世界」というのが答えになります。
具体的な行動計画
そして対策はどうなるかというと、エッチな妄想世界に依存しないようにすること、日頃からそういった思いにふけらないようにすることです。
拠り所への依存を断つために
具体的には、今に集中して作業する、運動をする、人と会話する、本を読む、趣味をやるなどして、妄想をしないようにして、日々の生活の中でコツコツと依存しない実績を積みあげていくということになります。これが認知行動療法の認知を変える行動化の部分ですが、拠り所(妄想)への依存を断つことができれば、大所高所から冷静に対応できるようになります。
一般的な認知行動療法でも行動活性化といって、気持ちが落ち着く活動を少しづつやってみるというのがありますが、山下メソッドの場合、行動活性化を目的意識を持って取り組むことができます。
余談
外来でやれない理由
うつ病は昇進や結婚など、おめでたい事がきっかけでなることもあります。中には私みたいな理由でうつ病になる方もいると思います。本人も理由なんて言えないだろうし、こっちも「あなたの何が崩れましたか?」とは聞けません。
山下メソッドは一人でもできますから、ぜひご自身でやってみてください。
私の拠り所は特殊かもしれませんので、次回は一般的な例を挙げ、深掘り質問も もう少し詳しく説明します。
A君のその後
ちなみにその後どうなったかというと、恐くてすぐには医局を辞められず、転職先の病院には1年待ってもらいました。その間、先輩医師にいろいろ教えていただき、また破門という形にならなかったので、結果的には良かったです。