前回のブログ(うつ病 診断 症状)でうつ病の構造について説明しましが”今回は様々なパターンを見てみます。
うつ病と誇大妄想の関係
ここで私の患者さんの例をお話します。
患者Aさんは30歳前半の男性の方で都内の企業にお勤めの方でした。そろそろ故郷に戻りたいと考え、転職活動を行い無事内定をもらえました。上司に1ヶ月後に辞める旨を話し、それを社長に伝えてもらったところ、社長の逆鱗に触れてしまいました。「転々としていたお前を、拾ってあげたのに、辞めるとは何事だ」と、社長は大変ご立腹でした。それでAさんは”うつ”になってしまったのです。
診察でのやり取りです。
Dr.Saaji:「転職先も決まってるし、何言われても気にしないで、次行けばいいじゃないですか。」
A :「いえ先生、社長が怖いのもありますが、そうじゃないんです。お恥ずかしい話ですが、・・・」
A :「実はいつもエッチな妄想してたために、ちょっと怒られただけで大事な時に踏んばりが効かないんです。」
日常的な空想の崩壊が心に与える影響
つまりこういうことです。Aさんは日頃頭の中でエッチな妄想にふけっていました。社長の逆鱗で、その妄想にふけれなくなり、”うつ”になったのでした。Aさんは頭の中の空想世界を作り、それを拠り所・慰めにしていたのです。
私は、崩れると”うつ”になってしまう空想や思考を誇大妄想と呼んでいます。誇大妄想もどれだけどっぷり浸かっているかによって、崩れた時の”うつ” の度合いが違うと思います。幸いAさんは軽い”うつ”ですみました。
昇進や結婚など、めでたいことでも”うつ”になる方もいます。たぶん本人の中で、何か自分の拠り所が崩れたのでしょう。こればっかりは本人が言ってくれないと分かりません。こちらから「何か妄想にふけってましたか?」とも聞けませんので、ご自身で何が崩れたか判断していただければいいと思います。
(“うつ”はうつ病の中核症状という意味で使っています。)
被害妄想が消えた時、心はどうなるか
誇大妄想は自慰的な思考で、崩れると”うつ”になるというのは分かりやすいと思いますが、それでは本人にとって苦しい被害妄想の場合はどうでしょうか。
統合失調症の被害妄想はお薬で軽減させることはできても、消えることは殆どありません。
しかし、私を指導してくれた先生から被害妄想が消えた症例について教えてもらったことがあります、その先生は2例ほど経験したそうですが、2例とも被害妄想が消えたら自殺してしまったそうです。
このことから言えることは、たぶん被害妄想も消えると”うつ”になります。被害妄想も患者さんが存在している世界ですから、それが無くなるということは”うつ”になるということです。妄想は簡単には消えないと思って投薬していますが、本当に消えたらそれも危険です。たいていは妄想が軽減し、陰性症状が出てきます。
うつを引き起こす依存・中毒
その他、アルコール、麻薬、ドラッグ、ポルノ、仕事、社会的地位、お金、宗教、人、他人の評価、ゲーム、インターネットなど様々なものが、依存や中毒の対象になります。先程の誇大妄想の話ではないですが、これらも依存しすぎると”うつ”になるリスクが高まります。何事も程々が肝心です。

