19、認知行動療法 大きな成果を求めすぎず、小さな目標をコツコツと

治療

認知行動療法は、妄想などの思考の癖(自動思考)を自己分析し、妄想が起きた時に思考の癖を修正していく治療法です。これは統合失調症、(躁)うつ病、神経症、すべての精神病(とは言ってもこれらは本質的には区別できませんが)に有効です。

妄想とは ”自分や他人を傷つける考えや行動”を言います。たとえば、憎しみや嫉妬、嘲笑、いじめ、不平、不満、他責、自責、自己卑下、希死念慮などがあります。現実かどうかで判断するのではありません。     参考記事:妄想について  どのように妄想に陥ってしまうのか?

認知行動療法の要点は、頭での理解ではなく、体で(体験)理解する必要があります。もちろん最初に自己分析をして思考の癖に気付くことは大切で、これも少しは効果があるでしょう。こういう時に思考の癖(妄想)が出やすいからそう思わないで別の考え方をしようと準備をする。そして妄想が出た時にいざやってみて、別の考え方ができれば、認知行動療法の効果が最大化できます。

しかしながら思考の癖(妄想)は、強い不安や恐怖などの感情と共に引き起こされるため、身構えていると、感情を抑圧して妄想が出にくくなります。こういう時はこういう風に考えようと決めたら一旦忘れて、無防備な状態で妄想が起きるのを待つ必要があります。そして妄想が起きた時、不安や恐怖に振り回される中で、認知行動療法を行えれば、体に叩き込む形で理解することができます。

たとえば、物事がうまく行かなかった時に、いつも自分のせいにしてしまう思考の癖(妄想)があったとします。実際そうなった時は、強い感情を伴った妄想に支配されている最中ですから、冷静に認知行動療法ができないと思います。短い言葉で「私のせいじゃない。」「私のせいじゃない。」と自分に言い聞かせるのが精一杯だと思いますが、これでも七転八倒になると思います。信頼できる人が側にいて「あなたのせいじゃないよ。」と言い聞かせても、難易度は高いと思います。妄想を引き剝がそうとすると、どうしても不安、恐怖が強くなってしまいます。 (“うつ” 原因はいろいろを参照)
でも、妄想に振り回されている中で認知行動療法が成功すれば、体がふわっと軽くなるなど、文字通り体で理解できると思います。

このような成果の大きい認知行動療法はなかなか難しいし、また成功するにしても予期せぬ時に予期せぬ形で起こることも多いので、あまり期待し過ぎず、小さなものをコツコツと積み重ねる方がいいかと思います。

たとえば、(落ち込んでいる時に)友達と景色を見てきれいだなーと思う。友達とカラオケで歌い楽しいなーと思う。マイナス思考になっている時に散歩してみる。これらも立派な認知行動療法です。SST(生活技能訓練)の記事でも書きましたが、友達と出かけて、警察に職務質問されて、自信はないけど、おどおどしないで対応するのも認知行動療法になります。暴露反応療法や作業療法も自動思考の治療でもありますので、広義には認知行動療法とも言えます。

その他、人との対話で気付きを得るというのも、認知(行動)療法になります。次にS君の話を載せますが、こういった小さな気付きも回数を重ねれば、大きな変化になっていきます。

S君談
高校生の時分、“みんなから髪の毛薄いことを嘲笑されている“ といった被害妄想に悩まされていたのはお話したと思いますが、父親に精神症状について話したことがあるんです。その時「みんなに笑われている」ことも話したんですね。

僕の父は厳しい人で、「よそはよそ、うちはうち」と言って、他の価値観を受け入れないで、自分の教育方針を貫いていました。

相談する前は、父親は「そんなことはない、気にするな」と言うだろうと思っていたのですが、意外にも相談してみると「確かに、他人が見ている気がする時あるよなー。でも案外人は、他人のこと真剣に見てないんだよな。みんな自分の事で精一杯だからなー。」と返してきました。

父親が人目を気にするのが意外だったこと、僕自身 自分のことで精一杯で 他人を見る余裕がなくなっていたこと、ここら辺がツボにはまったのか、父親の言葉は妙に説得力がありました。

この言葉で、もしかしたら妄想?と気付くことができました。しかし、まだ笑われている感じは続いてましたので、病識のない妄想から病識のある妄想に変化しました。

S君の被害妄想については、どのように妄想に陥ってしまうのか?を参照ください。

認知行動療法、SST、作業療法、暴露反応妨害法、これらを総称して心理社会的療法と呼びますが、これらを厳密に区別する必要はありません。これらを社会の中で何百回と数えきれないくらい体験していくことが大切です。デイケアや作業所からスタートしてもいいので、やれるところからやっていきましょう。

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